九月一日を軸に、地震、防災関係の記事を数多く紙面に載せました。私がデスクとして取材に携わった記事
は、八月二十八日朝刊一面「広島 ひとごとじゃない」、八月三十一日朝刊一面「490の惨状 場所特定」
、九月一日朝刊一面「首都直下地震 まず道路確保」などです。
昔話ですが、私は阪神大震災では一カ月以上にわたり神戸で取材にあたりました。地震発生の翌日、たくさん
の人々が国道を東へ、東へと列をなして歩き、被害の少ない大阪方面へ避難している様子。何人もが下敷きに
なっている倒壊したマンションの前で、なすすべもなくたたずんでいた人。避難所となった体育館で、毛布にく
るまりながら表情を失っている若い夫婦。今も忘れることができない場面がたくさんあります。
これも十年ほど前の話ですが、上司から頼まれて、NHK教育テレビの番組に、ほんの少しだけ出演したことが
あります。いろいろな職業の人を取り上げる社会科の授業などに使われる番組です。その日のテーマは、新聞が
どのようにつくられるかを紹介していました。私が現場で取材して、原稿を書いている様子を、テレビカメラで
撮影され、放映されました。私が取材したのは、銀座で行われた、大地震を想定した防災訓練でした。
東日本大震災の発生当時は、したまち支局長でした。支局員を相次いで東北の被災地へ取材に向かわせました
が、私自身だけは支局管内の取材優先だったので、あまり被災地に行けませんでしたが、江戸川区の液状化被災
地など、都内で大きな被害があった場所を取材しました。
このように、取材の仕事を通じて、かなり大地震について考えたり経験したりする機会が多いほうだと思いま
す。
近い将来起こる可能性が高いと言われる首都直下地震が起きたら、私個人の暮らしにとっても、大変な事態とな
るでしょう。自宅でも、災害時の非常用リュックや、水や食料の備蓄、家具の転倒防止など、備えはしています。
ですが、首都直下地震は必ず起きるんだ、という覚悟が、私自身にちゃんとあるだろうか。最近、取材やデスク
業務をしながら、そう自問しています。
恥ずかしい話ですが、覚悟ができているとは言い難いのです。大地震のような不幸なことは、できれば起きてほ
しくない、起きてほしくないから、あまり考えたくない、そんな気持ちが、心の奥底にある気がします。
東日本大震災や福島第一原発事故が起きたとき、「想定外」と発言する政治家や専門家が、数多くいました。で
すが、じつは「想定外」ではなく、「想定しようと思えばできたのに、想定したくないので想定しなかっただ
け」なのではないでしょうか。
そして、そう言う私自身も、首都直下地震の備えに関する取材をして記事を書いていながら、心の備えが足りないのではないか。そう自問しています。
大地震は想定外でも何でもない。日本では、東京では必ず起きる。何度も繰り返し、自分に言い聞かせて、心の備えをしたいと思います。
もう一つ、気になるニュースがあります。大田区の公園などで、ネコが相次いで不審死し、何者かが毒を入れ
たえさをあたえた可能性があるという事件です。
野良ネコが嫌いな人はいるでしょう。私は動物好きですが、近所に住み着いている野良ネコが迷惑だと思うこ
とはあります。でも、どんな事情があれ、ネコを殺すというのは異常です。なぜ犯人はそんな行動に走ったでしょうか。
小さな事件の背景に、大きな問題の根っこがあるかも知れない。そう心がけて日々、取材に取り組みたいと思います。
(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)