小学生時代の楽しい思い出のひとつが給食ですよね。世代によって、好きだった献立はさまざまでしょう。

昭和四十年代に小学生だった私は、今も定番の「揚げパン」、カレーライスと似ているけどご飯はない「カレー煮」といった献立を、懐かしく思い出します。

当時、米飯給食はほとんどなく、おかず、食パン、三角牛乳という組み合わせが基本でした。この三種類を順番に食べる「三角食べ」をしなさいと、よく先生に言われました。ですが、どう考えてもパンに合わない「白魚のかき揚げ」なんていうおかずが出て、これも三角食べしなくちゃいけないのかな、なんでご飯じゃないのかな…と、不満に思った記憶があります。ご飯を、ふつうに給食で食べられる今の子どもが、うらやましいです。

その給食をめぐって最近、心配な事態が起きました。

四月二十三日、荒川区の小学校で、四年生の男の子が給食を食べたところ、体がかゆくなるアレルギー症状が起きました。この男の子は、ごまアレルギーがあり、学校ではふだん、この男の子には、アレルギーの原因となる食材を使わない給食を出していました。手違いがあり、用意していた給食とは別の、ふつうの子どもに出す給食を出してしまい、ごま油が入った料理を食べたのだそうです。

幸い、この男の子は重症にはなりませんでしたが、もっと悲惨な事態も起きています。調布市の小学校で昨年十二月、乳製品にアレルギーがある五年生の女の子が死亡する事故が起きました。

粉チーズ入りの韓国風お好み焼き「チヂミ」が給食の献立にあって、学校では女の子のために、粉チーズを使わないチヂミを出してあげました。ところが、女の子がおかわりを希望したとき、担任が間違えて、ほかの子と同じ粉チーズ入りのチヂミをあげてしまったのです。

今年三月に検証委員会が発表した検証結果では、学校側の対応に問題があったことを指摘しています。その中で、女の子がアレルギー症状を起こしたとき、担任の先生が、アレルギー反応を抑える注射薬「エピペン」を、すぐに打たなかったことを問題点にあげています。

女の子はエピペンを持っていました。食物アレルギーがある子どもは、万が一に備えて、親が持たせることは多いそうです。女の子が症状を訴えた時、担任の先生はエピペンを打とうとしましたが、女の子が「打たないで」という意味のことを言い、先生はためらったそうです。このためらいが、結果として災いしました。その後、別の先生が打ちましたが、手遅れだったそうです。

先日、この問題を取材した後輩記者に、エピペンについて教わりました。先端を押しつけると針が出るので、服の上からでも打てます。医師でない人も、自分でも打てる注射です。もちろん痛いですから、子どもは嫌がります。ですが、重いアレルギー症状は命にかかわります。嫌がっていようが何だろうが、生きるか死ぬかの瀬戸際なのですから、迷わず打たなければいけないそうです。

ふだん私たちの多くは、身近にいる子どもの「死」を感じることなど、めったにありません。ですが、アレルギー対応が必要な子どもは、程度の差はありますが、荒川区の区立小中学校だけでも約三百人いるそうです。あってはならないことですが、こうした子どもたちがアレルギーを起こす食材を誤って食べてしまい、生死にかかわる事態は、学校給食以外でも起こりうることなのです。

アレルギーは、決して特別な病気ではありません。花粉症も一種のアレルギーです。これを機会に、子どもの食物アレルギーを身近な問題として考えてみて下さい。

 

(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)

すまいるたうん250号