嫌な話で恐縮ですが、東京電力福島第一原発についての記事が最近、また多くなっています。今月初め、私がニュースデスクを務めた日に、大きな事故が起きました。原発の敷地内にある貯水池から、貯めていた水が漏れ出したのです。
この水は、原子炉を冷やした水です。原子炉は、運転していようがいまいが、核燃料からたいへんな熱が出ています。ひとときも休まずに水で冷や続けていないと、二年前の事故とは比べものにならないほど大量の放射性物質をまき散らしてしまいます。
しかも福島第一原発では、原子炉の核燃料が溶け落ちていますので、冷やした水は、放射性物質で汚染されます。ですから使用後、原発敷地内で処理されます。
ところが処理で取り除ける放射性物質は特定の種類だけ。処理後の水にも放射性物質が含まれています。これでは海や地面に捨てられませんので、敷地内のタンクや貯水池に保管しているのです。
貯水池は地面に大きな穴を掘り、三重の遮水シートを敷いた池です。なぜ漏れたかは調査中ですが、何らかの理由でシートが破れたのは確かです。
水漏れによって地面が放射性物質で汚染されたのですが、より重大なのは、水が漏れるような池には、放射性物質で汚れた水をためておけないことです。
福島第一原発の敷地内は、すでに汚染水を貯めたタンクでぎっしりです。池を作る場所も限られています。かといって原発の外に、放射性物質で汚染された水を保管する場所を探すのは、かなり難しいことです。
説明が長くなりました。詳しくは新聞を読んでいただくとして、問題は、「水漏れ」という簡単な言葉では済まされない事故だということです。
福島第一原発では、最近にも停電事故がありました。これも重大な事故ですが、今回の水漏れは、もっと重大です。さまざまな状況から、原子炉を冷やしたあとの汚染水は当分の間、増え続けます。その水を保管できなくなれば、原発事故の収束作業ができなくなる、それどころか、核燃料が溶けた原子炉の安定が保てなくなり、さらに大変な事故が起きかねないということです。
恐ろしい話ですが、現状を知っていただくことは大切だと思い、新聞では詳しい記事を載せました。
この事故直前に私は、福島の現状を伝える写真展が荒川区のムーブ町屋で開かれるという話を取材、したまち版に記事を書きました。
二年が過ぎ、東京の人々の意識から「フクシマ」「原発」が薄れている―。そう危惧した荒川区内の市民団体「脱原発荒川千人アクション」が主催しました。写真展は八日で終了しましたが、この市民団体は五月十二日に集会とデモを区内で行う予定だそうです。
さて、原発の話ばかり続いたので、落語の話題を。先日、落語協会長もお務めの柳家小三治さんの独演会がサンパール荒川であり、私は一枚だけチケットを買えたので聴きに行きました。演目はもちろんですが、小三治さんは演目に入る前の前置き話「まくら」がとても面白い。この日も花粉症の話を延々としてから、「二人旅」と「茶の湯」をみごとに演じました。
この小三治さんの独演会には、孫弟子が一人、出演しました。柳家ろべえさん。なんとこの人、荒川区荒川一丁目にお住まいだそうです。「この会場まで徒歩一分。いつも前を通っていますが、出演は初めてです」などと話していました。
ろべえさんは二つ目ですが、この日は楽しいまくらと落語「たらちね」で、会場を笑わせていました。将来が楽しみです。地元として注目してみて下さい。
(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)
すまいるたうん247号