今ごろ年賀状の話題で恐縮ですが、 もう何十年も年賀状をやりとりさせていただいている方の一人に、最近まで南千住にお住まいだった方がいます。
この方から、以前、住んでいた栃木県へ引っ越されたというお知らせのはがきをいただきました。喪中でいらしたので、年賀状ではなく、お正月が明けてから、寒中お見舞いとしていただきました。
この方は、すでに引退されていますが、長年、海外を舞台にした新聞記者として活躍された、私の大先輩です。私は、ある縁があって学生時代、新聞記者を目指して勉強していたころ、この方と知り合う機会に恵まれ、文章を書く上でのアドバイスなどをいただいていた時期があります。現在でも、お会いすると、「○○先生」とお呼びしています。
はがきの末尾に、南千住にお住まいのころは、東京新聞に折り込まれてくる「すまいるたうん」の、私のこの拙文を楽しみにされていたと、手書きで書き添えて下さいました。お世話になった恩師である大先輩の、肉筆でのお言葉、たいへん感激しました。
私は、年賀状はもちろん印刷ですが、その年賀状の片隅に、肉筆でのひと言書きをなるべく書き添えるよう、心がけています。自分自身、先ほどの大先輩からいただいたはがきのように、手書きのひと言があると嬉しいものだからです。
ただ、文章を書くことを生業としている私たちも、肉筆で文章を書く機会が減っています。
私が東京新聞の記者になった昭和六十二年は、まだ原稿は手書きで、B5判の専用の原稿用紙に、万年筆やボールペンなどで書いていました。
数年後にはワープロが主流になり、今ではすべてパソコンで書いています。若い記者は、取材メモもパソコンを使うことが多いようです。
私も必要に応じてパソコンで取材メモを打つことはありますが、やはりメモは、手書きの方が好みです。パソコンですと、打ち慣れていれば、相手が話したことすべてを書き取ることが可能です。それは手書きでは難しいことですが、その代わりに、相手の話したことで大切だと思うことを聞きながら判断して、選んで書き取ったり、相手が特に強調したこと、微妙なニュアンスで言ったことを、それと分かるように書くことができます。例えば書いた言葉に下線や丸を付けたり、大きな文字や強い筆圧で書いたり。こうして書いた取材メモのほうが、記事にまとめるときに役立つことが多いのです。
ただ手書きメモで不便なのは、保管や検索です。パソコンで打ったメモならデータで保管し、キーワードで検索してすぐ引き出すことができますが、手書きメモではそれは無理ですし、大量のメモ帳は保管場所に困ります。
要はうまく使い分ければいいのですが、最近の若い記者はパソコンに頼りすぎではないかという気がします。
もともと新聞は、いち早く情報を伝える、現場の生の様子を伝える、といったことに関しては、テレビに勝てません。増して最近は、インターネットで記者会見や現場の様子などの生中継する動画サイトもあります。
それでも、現場の空気や臭い、登場人物の話の行間、背景など、映像や音声では伝え切れないことを表現できる文章で新聞記事を書ければ、テレビやネットに負けない。そのような記事を書くには、手書きメモが重要ではないかと思っています。そんな原稿を日々、書けているかと言われると、心もとないですが…。
テレビやインターネットも大切だが、やはり新聞を読んで分かることがたくさんある。そう思っていただけるよう、努力を重ねてまいります。
(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)
すまいるたうん241号