とても残念でした。先日、閉幕したロンドンオリンピックの、北島康介選手です。競泳平泳ぎ百メートル、二百メートルで、三大会連続の金メダルが期待されましたが、残念な結果となりました。

以前の本欄でも触れましたが、私は八年前の二〇〇四年に開催されたアテネオリンピックでは、荒川区担当記者として北島選手を応援する地元の人々を取材していました。北島選手が幼少の頃に通っていた南千住の総合スポーツセンターなどで行われた応援会で、期待や感動を語っていた区民の方々、特に子どもたちの声がとても印象に残っています。また、これもよく覚えているのが、アテネ閉幕後に荒川区役所を訪れた北島選手の表情でした。

私は、北島選手から六、七メートルほどの所で取材していましたが、北島選手は、ほっとしているとか、嬉しそうだという様子ではありませんでした。むしろ、緊張しているような、とても気合いが入っている表情でした。今にして思えば、北島選手はアテネで二つの金メダルを取っても、決して満足しておらず、あの時すでに、すぐに次、二〇〇八年の北京オリンピックを見据えていたのかもしれません。

今回のロンドンオリンピックでも、二百メートル平泳ぎが終わった翌朝、したまち支局の記者が、北島選手の地元を取材しました。二日の夕刊に掲載した記事に登場している、北島選手のご実家である荒川区西日暮里の精肉店や、その隣にある米穀店の店主さんは、八年前のアテネでは私が、四年前の北京でも当時の支局の記者が、試合後に取材へうかがっています。あらためまして、お忙しい中、取材にご協力いただいたことを、紙上をお借りして感謝申し上げます。

ところで今、北島選手の「地元」と書きました。素朴な疑問ですが、「地元」とは、どこを指す言葉でしょうか?

「生まれた場所」なのでしょうか? それとも、「住んでいる所」でしょうか?

広辞苑には、「そのことに直接関係ある土地。その人の住む、また勢力範囲である地域」と解説されています。つまり生まれ故郷に限らず、その人と関係が深い地域なら、「地元」と言ってもいいのでしょう。

オリンピックの記事に限らず、記事に登場する人物の「地元」の取材は大切です。その人物に関する情報がたくさん得られるからです。北島選手の場合、生まれ、実家は荒川区ですが、小中学校は文京区、高校は豊島区の学校を卒業しています。ですから文京区や豊島区も、北島選手の「地元」と言えると思います。今回も、北島選手の母校、文京区立文林中学校時代の同級生を取材しました。

荒川区観光大使を務めている女優、城戸真亜子さんは、荒川区にお住まいということで区役所が任命したそうですが、ご出身は名古屋市です。どちらも、「地元」と言えるでしょう。

かく言う私自身、生まれは東京都立川市ですが、したまち支局の管内にも、自分の「地元」はたくさんあります。支局のある浅草はもちろん、アテネ五輪や出直し区長選を取材した荒川区、東京スカイツリーの完成、開業を見届けた墨田区など、自分の記者人生にとって節目となる取材をした地域は、「地元」と呼びたいほどの愛着があります。

実は私、したまち支局を、八月で離任しました。人事異動で、千代田区にある本社の社会部に転勤しました。

ただ、愛着のある荒川区について書きたいことが、まだありますので、後任の支局長の了解を得て、本欄を引き続き担当することになりました。もうしばらくの間、お付き合い下さい。転勤と言っても、西日暮里から地下鉄でわずか十五分の所ですので…。

(東京新聞 社会部部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)

すまいるたうん227号