名古屋市で起きた、七歳の小学生女子児童が監禁され、逮捕された容疑者の父親が殺されていた事件。広島市で小学校六年生の女子児童が男にナイフを突きつけられ、旅行かばんに詰め込まれて連れ去られた事件。どちらも、私が本社でニュースデスクを担当している日に発生、発覚しました。女子児童は助け出され、容疑者は逮捕され、事件は捜査中ですが、私自身、三人の娘を持つ父親として、怒りと恐怖を覚えるとともに、こうした犯罪から、どうやって子どもたちを守ればいいのか、悩みます。

二つの事件は、どちらも一人だけで街頭にいる子どもが狙われました。小学生でも、塾やお稽古ごとなど、子どもだけ、あるいは一人で外出する機会は、どうしてもあります。そうした時に起こりうる、子どもへの犯罪をどう防げばいいのか。

言い古されたことですが、地域の人が地域の子どもたちの顔を知って、見守るしかありません。ただ、隣近所に顔見知りが少ないという地域が、都心部や山の手はもちろん、ここ荒川区のような下町地域にも増えているのは現実です。

せめて、大人も子どもも、地域に顔見知りを一人でも増やす努力が必要です。

仕事柄、というのは言い訳ですが、私は、早朝から深夜まで取材やデスク勤務が当たり前の、家にいない時間が多い生活です。以前から、少しでも空いた時間を有効に使って、地域、学校とかかわりをもちたいと思っていました。

今年から思い切って、娘が通う小学校の「おやじの会」に参加しました。運動会など学校行事で荷物運びや警備といった、学校のちょっとしたお手伝いが活動です。年間で活動日数がPTAよりずっと少ないので、何とかできると思いました。

これが、けっこう楽しいんです。運動会等の行事を、見るだけでなく、少しは「参加している」気分になれます。

何より楽しいのは、活動が終わって数日後に開催される「反省会」と称した、お父さんどうしの飲み会です。運動会後の「反省会」では、地域の父親がたくさん参加し、校長先生や、卒業した上の娘の担任だった先生も参加して下さいました。保護者と教師というより、男同士、グラスを傾けながら、お互いの子どものうわさ話(?)に花が咲きました。

こんな遊び半分で偉そうに言うのは恥ずかしいですが、日ごろ住んでいても顔も合わせないサラリーマンの父親同士の顔、お互いの子どもの顔が、一人でも多く分かるようになれば、少しでも防犯、安全なまちづくりにつながるんじゃないか…。とまあ、楽しんだ後から付けた理屈ですが、思うんです。

親が地域を知るとともに、子どもが社会を知ることも大切だと思います。

また手前味噌ですが、今年も八月、したまち支局は、荒川区立第一中学校の生徒を受け入れ、職場体験学習を行いました。男子生徒が支局の記者と一緒に、東京スカイツリー周辺の商店街を取材しました。その記事は、八月二十三日朝刊第二社会面に掲載されています。この朝刊を担当した本社デスクは、私でした。

男子生徒は、スカイツリーにあれだけたくさんのお客さんが来ているのに、周辺商店街にお客さんが増えていないことを取材して、「良い店が知られていないのはもったいない」と感想を話したそうです。子どもなら誰もがすごいと思うスカイツリーにも、マイナスの面もあることを知ったのは、すごいと思いました。

子どもには難しいことですが、世の中の課題や矛盾を少しでも知ることは、子どもの生きる力を育てる上で必要だと思います。将来、そうした問題を解決しようと努力して、世の中をより良くしてくれれば、すばらしいことだと思います。

(東京新聞 社会部部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)

すまいるたうん226号