遠い所で起きた事件や事故でも、身近なところに影響が及ぶことは、よくあります。今月二日に起きた、中央自動車道のトンネル事故も、そうでした。
その日、私は朝刊デスクでした。事故が起きたのは山梨県ですが、かなりの大事故、しかも東京から始まる高速道路の、下り車線で発生しました。被害にあった人は、東京方面から山梨、長野方面へ向かっていた人、つまり東京やその周辺に住んでいる可能性が高い。これは大変な事故になりそうだと、早めに出勤しました。あとで分かったことですが、この事故で九人の方が亡くなり、その中には東京都千代田区にお住まいの若い人たちもいました。
高速道路のトンネルの天井板が崩れ落ちた、ということも、事故の影響の拡がりを感じました。
高速道路は全国に張り巡らされています。もちろん地形や交通量、気象条件などによって違いはありますが、おおむね似た構造です。案の定、事故があった中央高速の笹子トンネルと同じ構造のトンネルが、全国至る所にありました。ならば、同じような事故が起きても不思議ではありません。急きょ高速道路会社は、トンネルの緊急点検を実施。いくつかの不具合がみつかりました。
今回の事故の教訓は、簡単に言うと、「ま、いいか」の恐ろしさです。
高速道路のトンネルでは、天井板が古くなっていないかなどを調べるため、ハンマーなどで「コンコン」と叩いて調べる「打音検査」を、本来は定期的に行うべきなのに、天井が高すぎて手が届かないなどの理由で、行っていませんでした。
まさか天井板が落ちるわけがない、大丈夫だろう、という油断があったのではないでしょうか。九人もの命が失われた原因が、そんな「ま、いいか」だったとすれば、悔やんでも悔やみきれません。
年末だというのに悲惨な事故の話を書いてしまいました。
衆院選や東京都知事選の話も書こうかなと思いましたが、新聞でさんざん書いていますし、このミニコミぐらい、楽しい話のほうがいいですね。
私は落語が好きで、休みの日は寄席へ行ったり、録画しておいた落語番組を観たりしています。
以前は全く興味がなかったのですが、したまち支局管内では、地域ニュースや郷土の歴史に落語が関係することが多いので、必要に迫られて勉強しているうちに、落語ファンになりました。
最近、面白かったのは、十一代目・桂文治さんの襲名披露。台東区のお寺ある、戦時中に自粛させたれた落語を葬る「はなし塚」という石碑の顕彰に力を入れている師匠で、以前、取材したこともあります。新宿・鈴本演芸場で見た襲名披露には、落語芸術協会の桂歌丸会長はもちろん、上方落語の代表として、笑福亭鶴瓶さんも登場、ぜいたくな舞台でした。
荒川区に縁がある落語家もたくさんいますね。若手の人気者、三遊亭王楽さんは荒川区出身。実の父親である三遊亭好楽さんは、同じ師匠の弟子どうしなので、落語界では「兄弟」関係です。
今は女性の真打ち落語家もいますね。その一人、三遊亭歌る多さんは、みなさんの地元、南千住出身です。先日、あるテレビ番組で「町内の若い衆」というネタを演じていました。威勢の良い江戸っ子を演じる話しっぷりが見事でした。
笑顔になれるニュースがあまりに少ない毎日ですが、悲観してばかりいても、明るい未来は描けません。落語には、江戸から現代に至るまでの、偉い人ではない、ごく普通の庶民のエネルギーが充ち満ちています。
落語を聴いて思い切り笑って、心機一転、新年を迎えましょう。
(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)
すまいるたうん232号