もう成長した私の子どもたちが、かつて通っていた幼稚園は、住宅街にありましたが、敷地はけっこう広く、

樹木もたくさん生い茂っていて、動物を何匹も飼育していました。自然の中で思いっきり遊び、命の大切さや四

季の移り変わりを実体験で学べる園でした。今、子どもたちが大きな病気やけがをせずに過ごせているのも、そ

の幼稚園生活のおかげだと思っています。

そうした経験があるので、十月三十日の朝刊一面、社会面に掲載した原稿をデスクとしてチェックしたとき、

とても考えさせられました。

「子どもの声=騒音?」という記事です。東京都の環境確保条例には「何人も規制基準を超える騒音を発生さ

せてはならない」という条文があります。「何人も」とあるから、例外なくすべての騒音を指す、と解釈できま

す。しかし、工場などの騒音と、子どもの声を同列に扱うのはおかしいとして、東京都が子どもの声を対象から

除外するなどの条例見直しを検討している、という記事です。

最近、保育所などで「子どもの声がうるさい」といった苦情が増え、住民が保育所建設に反対したり、騒音差し

止め訴訟に発展したりする例もあり、この条例が、保育所を訴える根拠とされる可能性があることが、見直しの

背景にある。こういう記事でした。

毎日聞こえる騒音は、聞かされる人にとっては、たまらないでしょう。

私の家の近所には、見通しが悪くて狭い道路があります。車どうしがすれ違うのが難しく、しばしば運転手が、

クラクションを何度も何度も鳴らしています。特に夜中にならす人が多く、とても迷惑です。道路を広げてほし

いですが、周囲は住宅密集地なので、まず無理です。クラクションを控えるよう呼びかける看板を設置できないかと思っています。

また、些細なことですが、その道路で毎朝早い時間に、大声で演歌をうたいながら歩く、中年の男性がいます。

面識はありません。いつも同じ歌です。特に下手というわけではありませんが、毎朝、聞きたくもない同じ歌を

大声で聞かされると、嫌な気持ちになります。

子どもの声も、電車や病院など、場所によっては騒音になるでしょう。しつけ、マナーは大切です。

保育所や幼稚園の子どもの声も、毎日のことですし、聞こえる時間も長いから、ご近所にとっては深刻な問題でしょう。

ただ、やはり考えてしまいます。保育所や幼稚園ではしゃぐ子どもの声が、騒音なのか…。

東京に保育所は不足しています。子どもたちを育てる環境がないと、若い人たちが安心して子どもを産めません。

荒川区の今年十月現在の人口のうち、十五歳未満は一一・四九%。二十年前は一二・七%でした。年々減っています。

保育所や幼稚園といえども、外で遊ぶ時間帯の制限や、住宅密集地にあるなら、防音設備などが必要でしょう。

そうした配慮をした上で、子どもが思いっきり元気に声を上げて遊べる場所を、大人みんなの責任で地域に確

保することは、子どもの成長のために必要だと思います。

保育所が足りず、子どもを安心して育てられない地域では、どんどん子どもが減り、高齢者を支える若い世代

がいなくなってしまいます。

難しい問題ですが、子どもも、保育所に預ける親も、うるさくて迷惑をこうむる人も、同じ地域住民です。どこ

かで折り合いをつけて、楽しく過ごせるよう、みんなで考えてほしいと思います。

今回の記事が、皆さまが住みよい地域づくりを考える材料となれば幸いです。そうした記事を一つでも多く、ご

提供できるよう努力したいと思います。

(東京新聞 社会部 部次長

〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)