小さな記事を大切にしなさい。よく部下に言います。自分にも言い聞かせます。
例えば、したまち版の下の方に載っている情報コーナーは、小さな記事ですが、書いてある一つ一つ、どんな
行事が、何日の何時から、どこであるのか。有料か無料か、問い合わせ先はどこか。どれも、その行事に関心が
ある人にとっては、欠かせない情報です。日付け一つでも間違えれば、ご迷惑をおかけします。小さな記事で
も、取材して書く時には、細心の注意をするよう心がけています。
もちろん、大きな記事は大切です。一面や社会面のトップ記事、見出しや写真を大きく扱っている記事は、そ
の日の新聞の中でも、特に読んでいただきたいから、大きくしているといえます。
でも、小さな記事も、読んでいただきたいからこそ、掲載しています。
記事にしたほうが良いと思える大切なことは、毎日たくさんあります。ですが、すべて記事にしようにも、取材
して書く時間には限りがあり、書いても紙面に限りがあります。その中でも、それを取材して記事を掲載したの
は、より多くの人に役立つと考えるからです。なるべく役立つ情報が多く詰まっている記事を載せようと、
日々、心がけています。
ただ、みなさまの地元・荒川区の記事が、必ずしも毎日、載っているとは限りません。なるべく地域の記事を
多く載せたいと考えていますが、東京には二十三の区と二十六の市、五つの町、八つの村があり、それぞれの地
域の記事も載せるので、なかなか毎日、荒川区の記事を載せることができません。
ですが、新聞には幅広いジャンルの記事が載っていますので、その中には、荒川区の皆さまに役に立ちそうな記
事、関心を持っていただけそうな記事は、毎日、何かしらあると思います。
例えば、七月一日の朝刊。総合面に毎日、載っている「首相の一日」という小さな記事に、こうありました。
「6時4分、ブータンのトブゲイ首相と首脳会談。45分、共同記者発表」。ブータンの首相が来日し、安倍首
相と会談したのです。
ブータンは、中国とインドに挟まれた小さな国ですが、「国民総幸福量」を、国の発展の度合いを測る指標とし
ています。荒川区はこれにならって、荒川区民総幸福度というのを研究していますから、荒川区のみなさまに
とって、ブータンは関心のある国の一つだと思います。
残念ながら今回、ブータンの首相は荒川区を訪れませんでしたが、日本はブータンに五十年にわたり農業分野な
どで政府開発援助を続けており、首脳会談では、今後も交流を深める約束をしたそうです。 ブータンとの交流
が深まれば、ブータンの要人や市民が、荒川区を訪れる機会も増えるかも知れません。
このように、紙面のどこかに、自分に身近な記事があると思いながら、新聞を読んでいただけると、うれしいです。
さて、先月から今月にかけて、集団的自衛権についての記事がたくさん載りました。私は、憲法解釈を変えて
集団的自衛権の行使を認める閣議決定をしたことを伝える七月二日の朝刊など、多くの紙面でニュースデスクを務めました。
紙面でさまざまな問題点を指摘していますが、私自身、今もこの集団的自衛権の行使、何が問題か、これから
どうすればいいのかを、記者としてはもちろん、一市民として考えています。よその新聞の、行使に反対の立
場、賛成する立場で書いている、さまざまな記事も読み、いろいろな雑誌や本も読み、いろいろな人の意見も聞
いています。
迷いながら考えて、その考えを生かして、大きな記事であれ、小さな記事であれ、みなさまがいろいろな問題
を考えるヒントになるような記事を、書いて、載せられるよう、心がけたいと思います。
(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)