歴史ブーム

編集委員(元したまち支局長) 植木幹雄
皆さん、歴史はお好きですか。最近は歴史ブームだとかで、書店には歴史関連の本が多く並び、歴女(歴史好きの女性)という言葉まで登場するほどです。
大河ドラマ「篤姫」あたりで、女性の歴史ファンが増えたようです。
現在の竜馬伝も高視聴率、3年がかりの坂の上の雲も面白く、さらには、早くも来年の大河ドラマの主人公が「江姫」(織田信長の妹お市の方の娘で、淀君の妹)だとかで、さらに話題を呼びそう。
かくいう、私も歴史好き。もっとも、中学・高校時代の授業としての歴史は、覚えることが多すぎ、同級生の話だと、しばしば授業を脱走していたようです。
歴史の面白さに目覚めたのは、大学時代。哲学科に進んだはずなのですが、当時かなり授業選択はアバウトで、ユニークな教授も多く、好きなことを、自主学習でやらせてくれました。一人ひとり教授と面談し、相談しながら年間の学習テーマを決め、最初は「自殺学」。そこから、強制された死、として「心中」「軍人の自決」と進みました。不思議な物で、好きにやれといわれると、歴史も楽しく、「自決」を知るには、戦争史が必要になり、会津生まれの私には、戊辰戦争も興味あるテーマになり、結局戦争を中心とした近現代史専攻のような格好でした。
多くのことを教えられました。
「突然、今、があるわけじゃない。長年の歴史の偶然と必然が重なり、今がある。今を知りたければ歴史を学べ」
「時間は巻き戻せない。しかし歴史の成功や失敗から学ぶことは出来る。しかも、新発見で歴史を変えることも出来る。すばらしい学問だ」
これはいい面です。ところが
「歴史ほど不確実性の高い学問はない。君らが学んでいる歴史の原本は、時の権力者がまとめた物で、物証を伴わない物が多くある。どこまでが本当か、見極めはかなり難しい」
「歴史を公平に判断するのもまた難しい」
後者、特に戦争が顕著ですね。分かりやすく映画でいえば、ジョン・ウエインの西部劇を見ていると騎兵隊は正義の味方で、インディアンは悪役のイメージがわいてきませんか。しかし、インディアン側を主役にした映画では、逆のイメージがわいてきます。
戊辰戦争も、坂本竜馬や西郷隆盛など志士側から描くか、会津や新選組側から描くかでまったく異なる歴史観が生まれます。これを本にし、また極端な話、教科書で描く場合、視点の置き方によってかなり深刻な事になります。歴史教科書が検定でもめるのも、わかります。
でも、趣味としての歴史は面白いものです。例えば、坂本竜馬暗殺は、新選組説から、京都見回り組の幕臣説、今は、力で幕府を倒そうという薩摩藩が、穏健派の竜馬が邪魔になり暗殺した、という説も出て、余程の資料が出ない限り、決着はつかないでしょう。また、太平洋戦争で、米国への宣戦布告は何故遅れたか、これも諸説あり、はっきりしていません。
この二つだけでも真相が分かれば、その後の歴史は大きく塗り変わります。こんな事が歴史には数え切れないほどあり、奥の深さは底が知れません。
南千住は、杉山さんが、いろいろと調べて書いておられますが、開けるのも早く、日光街道があったことで歴史の宝庫。私は神社、仏閣の境内を歩くのが好きなのですが、回向院に、作家の三島由紀夫に大きな影響を与えた、二・二六事件の青年将校磯部浅一夫婦の墓を見つけたときは驚きました。さらに、幕末に名を知られた吉田松陰らも。円通寺にいけば、幕末に上野の山で戦った彰義隊の戦いをしのばせる黒門、隊士の碑などが並び、目をつむって当時を思い浮かべるだけで、心は百数十年前に飛んでいきます。