「落語界の小さな殿堂」という見出しの記事を、先月十九日の朝刊最終面「TOKYO発」に書きました。

以前にもこの欄で触れましたが、ニュースデスクが本業の私は、自分が記事を書くよりも部下に記事を「書かせる」ほうが本来の仕事なのですが、やはり文章を書くことそのものが好きなので、時には自分の手で記事を書きます。

この記事の取材で、落語家の三遊亭鳳楽さんにインタビューしました。

鳳楽さんは、日暮里サニーホールで定期的に独演会を開催されるなど、荒川区内でもよく落語を披露されているので、読者のみなさんにもファンは多いでしょう。

関東地方の落語家がつくる団体は四つあり、鳳楽さんはその一つ、「五代目円楽一門会」の会長を務めています。大変お忙しい落語家さんですが、落語の専門記者でもない私のお願いに応じて、貴重な時間をインタビューのために割いてくださいました。

落語好きの方には常識だと思いますが、関東の落語家が所属している団体は、四つあります。

「落語協会」。柳家小三治さんが会長です。

「落語芸術協会」、略して「芸協」。横浜の師匠、桂歌丸さんが会長です。

この二つの団体は、浅草演芸ホール、新宿末廣亭、池袋演芸場といった寄席で、定期的な興行を行っています。

さて、ほかの落語団体は、「落語立川流」。故・立川談志さんが設立しました。

もう一つが、先ほども書いた通り、鳳楽さんが会長の「五代目円楽一門会」。故・五代目三遊亭円楽さんが設立しました。

後の二つの団体は、前の二団体のような浅草などの常設の寄席では、興行を行いません。その代わり、ホールや公共施設などでの独演会や小さな落語会などを、各地で数多く開催しています。

荒川区にも常設の寄席はありません。ですが、鳳楽さん率いる圓楽一門会のみなさんや、立川流のみなさんが、とてもよく落語会を開催される地域の一つだと思います。

荒川区長が「席亭」で、区内各地のふれあい館で開催される「荒川ふれあい寄席」は、鳳楽さんと同じ円楽一門会の、三遊亭好楽さんのご一門が出演されています。

こうしてみると、荒川区は、落語好きの方にとっては、とても住み心地が良いところだと思いますね。

さて、冒頭の、鳳楽さんへの取材の話に戻ります。

記事で取り上げた「落語界の小さな殿堂」は、横浜にある、とても小さなスナックのことです。詳しくは記事をお読みいただけるとうれしいのですが、その小さなスナックで月一回開催されている、二十人ちょっと入れば満員となってしまう小さな落語会が、この十月で五百回の節目を迎えるという記事です。この落語会の、昭和四十五年十二月に行われた第一回に、鳳楽さんが前座時代に出ておられたのです。

鳳楽さんは大ホールを満席にする人気落語家です。それでも、わずか二十人ちょっとしか入れない、このスナックでの落語会を、長年、とても大切にされています。

荒川区も、鳳楽さんにとって大切な場所なのだと思います。日暮里サニーホールでの鳳楽さんの独演会は、十一月二十八日に予定されているそうです。私も休みがとれればぜひ行きたいと思っています。

落語家さんが大切にしてくれている町であり、落語家さんを大切にする町。荒川区はいい町ですね。

(東京新聞 社会部 部次長〔前・したまち支局長〕 榎本哲也)

すまいるたうん265号