「『輝汐』の軌跡」という見出しの記事が、去る十一月二日(水)朝刊の裏面「TOKYO発」面に掲載されました。
荒川区南千住の汐入地区にある東京都立産業技術高等専門学校の学生たちが、人工衛生の開発、宇宙への打ち上げに成功したストーリーが、道徳の教科書(副読本)になったことを紹介した記事です。
人工衛星「輝汐(きせき)」については、記事で詳しく触れているので省略しますが、東京新聞したまち支局では、この荒川区の高専生の夢のある挑戦を、始まりのころから折に触れ取材してきました。
この話題に関する最初の記事は、二〇〇五年七月二十日の朝刊、今回と同じ「TOKYO発」面でした。手前みそで恐縮ですが、書いたのは私です。
当時の校名は都立航空高等専門学校。その名の通り航空工学科を持ち、校内には本物の飛行機も展示していました。
先日の記事にも登場する、宇宙科学研究同好会の顧問、石川智宏先生は、その二年前に航空高専へ赴任したばかりでした。以来、ずっと同好会で人工衛星づくりを指導しています。そんな野心的な挑戦をする先生なのに、とても物静かで穏やかな方です。
当時の取材で印象的だったのは、慣れた手つきでIC基板をいじったり設計図を書いたりする上級生の横で、まだ中学を卒業したばかりで幼さの残る一年生が、「C言語」と呼ばれる、コンピューターのプログラム作成のための特殊な文字列を、器用にキーボードで打ち込んでいたことです。
研究会発足以来の部員にも話を聞きました。五年制の高専の最上級生で、二十歳。就職活動のために背広を着ていました。一般の高校生はもちろん、同じ年齢の大学二年生と比べても、とても大人びた話し方で、社会人らしさを感じさせる青年でした。
人工衛星の打ち上げは、そんな簡単な者ではないことは、彼ら学生が十分に自覚していました。わずかなミスがあれば宇宙空間で壊れたり通信不能になります。五年生の部員は、「作り、調べる、エラーがあれば作り直す…の繰り返しです」と話していました。
また、人工衛星を打ち上げるロケットはさすがに作れませんので、打ち上げ予定のロケットの隙間に、人工衛星を載せてもらう必要があります。一時は海外のロケットに入れてもらうことも検討したそうですが、最終的には日本のH2Aロケットに積んでもらい、打ち上げに成功しました。
この打ち上げのドラマを描いた道徳の副読本は、まだ正式に発売されていませんが、来年四月以降、教科書を取り扱う書店に並ぶ予定です。おそらく区内の図書館にも置かれるでしょう。興味のある方は、ぜひご覧になって下さい。
付け加えて、東京下町と関係がある宇宙の物語を、もう一つご紹介します。
輝汐と同様、壮絶なドラマを演じた末に大変な快挙を宇宙で成し遂げた小惑星探査機「はやぶさ」のことです。太陽系を回る小惑星「イトカワ」に着陸し、サンプルを採取して地球に持ち帰るという、世界初の快挙を成し遂げた探査機です。
「はやぶさ」は危機の連続でした。着陸の失敗に加え、無線通信が途絶えてしまい、居場所すら分からなくなった。ところが奇跡的に無線が回復、みごとに着陸とサンプル採取に成功したのです。
このドラマを題材にしたプラネタリウム映画を、台東区の映像制作会社が制作しました。「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」という題名です。すでに各地のプラネタリウムで上映され、たいへんな話題になりました。
残念ながら現在は近隣で上映されていませんが、すべて事実に基づくストーリーなのに、はらはらどきどきさせられ、最後は感動させられます。
(東京新聞したまち支局長 榎本哲也)すまいるたうん196号