出版界は今

南千住の皆さま。新年あけましておめでとうございます。本年もこれまでと変わらず東京新聞をよろしくお願いいたします。
さて、今回お話しするのは、私が初めて東京編集局以外で経験した出版局(現事業局出版部)の世界です。
皆さん、日本では一年間でどのくらいの本が出版されていると思いますか。二〇〇八年六月の公正取引委員会の資料によると、二〇〇七年は、約七万七千点、約十三億冊、販売部数は約七億五千万冊。私が社会部で、「深刻な出版不況」の記事を書いた一九九三年の数字が、出版点数約四万五千八百点、十三億八千部、販売は八億七千七百部。出版点数は七割も増えているのに、販売部数は減っています。九三年の記事も、その前の数年間の売れ行きが大きく落ちているので書いた訳ですので、現在の状況がおわかりになると思います。
理由は、本が売れないので、大手は様子見を兼ねて新書・文庫本を中心に次々に初刷りを少なくした新刊本を出し、出足がいいと一気に増刷するという方法をとっているためと、業界では見られています。大手を飛び出した編集者が会社をつくり、積極的に出版していることもあるでしょう。あとは宣伝力と、インターネットやテレビなどでの取り上げられ方。七万七千点のなかで、何十万、何百万部と売れるのは数えるほど。ほとんどは存在も知られないまま数千部程度で消えていきます。厳しい時代です。
プロの出版社がこんな具合なのに、素人に近い、にわか編集部長が売れる本をどう企画するか。大学時代の先輩で出版社の編集者からもアドバイスを受けましたが役にはたたず、結局は我流です。
持ち込まれてくる売り込み原稿、新聞の連載企画、これを編集し直せば本にならないか、筆者と協議したり、あと自分が出したいテーマの本を書いてくれそうな筆者を捜して打診したりしてイメージをまとめます。
あとは、会社への書類作成。定価をいくらにして、何部刷り、どのくらい売れれば利益が出るかの計算。これが最も頭が痛い仕事です。書店やネットで類似本の価格、売れ行きを調べ、何度も書き直し。内容が伴わないと、会社から厳しい追及が待っています。許可が出れば編集、発行です。でも、許可が出てから出版にこぎつけるまでに筆者、編集者、デザイナーと何度も打ち合わせし、どんなに早くても三カ月、通常半年、筆者の原稿が遅れると一年以上かかることもあります。
出版したら、売れ行き。書店がたくさん仕入れてくれたとしても、喜ぶ訳にいきません。返本があるからです。年間七万点を超える本が出版されても、書店の展示スペースには限度があり、早ければ二カ月くらいから返本が始まります。増刷が続いたり、少しずつ売れる本もあり、成果がある程度分かるのは、半年くらいたってからでしょうか。私が企画した本でこれから出版されるのが何点かありますし、既刊本の売れ行きも未だに気になります。
あまり知られていませんが、わが国を代表する本格的登山誌「岳人」は出版局の目玉です。しかも、月刊、別冊とも経験豊かな出版一筋の編集長がおり、世界の山を駆けめぐったスタッフが編集してますので、これは私の出番なし。表紙の写真や企画の善し悪し、新たな企画の提案が精いっぱい。
さて、出版に行けば、好きなだけ本が読めると思いましたが、読んだのは原稿と、ゲラばかり。それでも本を買い続け、書斎の壁二面を使った作り付けの本棚は二重に並べてもはみ出す状態。編集委員も、仕事の本が主体ですが、少しは趣味の歴史本が読めるようになりました。