これでいいんかい
編集委員(元したまち支局長) 植木幹雄
先月、ある新聞記事で、日本のお金持ち人口が世界二位と知ってぶっ飛びました。このお金持ち基準は、居住用不動産を除いた資産総額が百万ドル(現レートで八千数百万円)以上。トップは米国で二百八十七万人、次いで日本の百六十五万人で、全世界のお金持ちの16%になるそうな。
土地価格の下落が続くとはいえ、まだまだ高い日本。住んでいない土地を所有していれば必然的に資産価値も上がり、こんな結果になるのかも知れませんが、生活格差が広がっていることを感じます。
政府は日本の失業率は5%前後で、10%の米国、8%の欧州に比べて低いと主張していますが、日本は失業手当の質と期間で大きく劣っています。また、大学を卒業しても職が無く、留年したり、取りあえず大学院に行ったり、高校、大学卒業後専門学校に行ったりという人を加えれば、隠れ失業者はかなりの数になるでしょう。
さらに、厚労省によると働いているのに貧困層に属するワーキングプア(標準的な国民所得の半分以下)の数が、2007年時点で六百四十一万人に達すると説明しています。これは、男性労働者の約一割に達しているとのことですが、年々増えているうえ、隠れプアの多さも指摘されています。
また、生活保護を受けている家庭は百八万世帯ですが、それ以下の収入で生活している世帯は約六百万世帯。生活保護を受けることは恥ずかしことでもなく、みんなが安心して暮らせるためのシステムでお互い様のことです。ですが、保護を受けるためには、さまざまな条件が多すぎるという問題があります。保護を受けられない人は、家賃を払うと数万円で親子数人が暮らす生活。食事だって満足にできません。憲法で明示された最低限の生活保証に届かず、明らかな憲法違反です。
バブル崩壊からしばらくたって、ある経済学者の本を読んでいたら、不況脱出は、まず富裕層をつくり、彼らに消費させることで経済が回っていくという理屈が書いてありました。確かに後進国といわれた国が成長していく過程でよく見られる現象です。お隣中国が分かりやすい例かも知れません。庶民はいつも後回しというわけです。
今、子ども手当、高校の授業料無料化の制度がありますが、お金のある人にまで援助してどうする気なんでしょうね。
生活苦で、高校に行くのがやっとの家庭も多く、優秀な人材が家庭の事情で大学進学を断念している例も多く聞きます。国家的損失です。政治家の皆さんは知らないわけないと思うんですが。どぶ板選挙はしても、どぶ板生活調査は苦手なんでしょうか。
年金だってそうです。国民年金は数万円。持ち家だって憲法で言う「文化的な」生活なんてできっこありません。仕送りできる子どもがいれば、何とかなるでしょうが、いなければ、憲法違反状態の生活です。いたとしても、この失業率と、低賃金。親を大事にしたい子どもにだって限界があります。子どもも、将来の年金制度がどうなるか不安ですから、貯蓄をしたいところですが、親の生活には変えられません。自分の将来に不安を持ちながら親に仕送りしている人も多いでしょう。さらに、親が長生きしてくれるのは子どもにとってうれしいことですが、自分が年金生活に入ったとき、さてどうしましょうか。仕送りどころではありません。無年金候補者だってかなりの規模にのぼるわけですから、事態は深刻です。
何故こうなってしまったのか。大きくは、政治家と官僚、大企業の持ちつ持たれつの関係が長く続いてきたからでしょう。
何せ、中央官庁はわが国を代表する優秀な人材が集まるところです。ところが頭脳の優秀さと「品格」はまた別問題。年金基金で次々に施設を作り、一兆円もの損失を出しても、責任をとる人も無く、あまつさえ天下り先の確保と聞いてあきれました。思えば、日中戦争、太平洋戦争を推し進めたのも、当時のエリート中のエリートである軍事官僚でしたね。
下手な政治家では太刀打ちできないし、官僚出身の政治家が増えているのも、何かしら、官僚の存在感拡大を感じます。厚生大臣時代、エイズ問題で官僚を追い詰めた菅直人首相も、今は精彩さを欠きます。
今、政権交代を果たして一年が過ぎた民主党は、選挙時の政治改革への熱意はどこへやらで菅首相と小沢一郎前幹事長の「内ゲバ」に夢中。一票を託した国民はそっちのけ。官僚たちのせせら笑いが聞こえてきそうと思うのは私だけでしょうか。