ゼノンのパラドックスという論理があります。こんな言葉を使うと、一気に読む気がしなくなりそうですが、皆さんも内容は学校などで聞いたはずです。

例はこうです。豪腕投手が、思い切り捕手のミットに速球を投げ込みます。しかし、これを机の上で計算すると、ボールはミットに届いていないという理屈が成り立ちます。投手が投げたボールは、必ず投手と捕手の真ん中の位置(仮にこれをAとします)を通ります。さらに進んで今度はAと捕手と捕手の中間(Bとします)を通ります。次にBと捕手の中間(C)を通ります。これを繰り返していくと、ボールは確実に捕手に近づいていきますが、距離が2分の1ずつ減っていくだけで、ボールはミットに届かないことになります。変な理屈ですが、数学・哲学上は正解です。ギリシャの哲学者アリストテレスの文献にもあります。

そんなこと、世の中にあってたまるか!、と思いたくなりますが、実際にあるんです。今、日本を脅かしている放射性物質が出す放射線です。

放射性物質を紹介する場合、しばしば半減期という言葉がついてきます。セシウムなら三十年から五十年、プルトニウムなら何万年とか。多くの方が、この半減期が過ぎれば、安全という目安の数字と思っているかもしれません。しかし、これは単に放射線を出す能力が半分になる期間のことです。セシウムなら、半減期を過ぎたあとまた三十年以上かけて、半分になり、また三十年以上かけて半分になるというわけで何回繰り返してもゼロにはなりません。

原子力の世界では、実際にゼノン理論と呼ばれているそうです。放射性物質の種類、量によっていつかは人体に影響のない程度になるでしょうが、福島第一原発に保管されている放射性物質の量は、ウランの量からも広島・長崎原爆の量をはるかに上回っています。

何しろ、日本には放射性廃棄物のリサイクル処理施設は二兆円かけて造ってもほぼ役に立たず、どこかに捨てるにも処分場がありません。このため、原発建て屋のプールに、使用済み核燃料という物騒な物が大量に保管されています。福島の4号機が定期点検中で稼働していなかったにもかかわらず、重大事故を引き起こしたのもこのためです。

今、報道に携わる一人として、何度も自問自答しています。原発のある福島県で生まれ育ち、初任地は東海原発のある茨城県で、東海原発訴訟の結審、判決を取材し、一九九九年のウラン加工会社JCOの事故では本社でサブデスクも担当しました。原発の怖さを知りながら、漠然と「重大事故はないだろう」と思いこんでいました。折に触れて書いては来ましたが、果たして原発の真実を報道してきたのだろうかと。

せめてもと事故以来、反省し原発関連本二十冊以上、専門雑誌のほとんどに目を通し、コラムに書き続けています。

東電や経済産業省の発表では、原発は汚染水に手を焼いているものの、行程通りに進んでいることになっています。しかし、一方で水素爆発で飛び散った放射性物質は二百キロ以上離れた場所でも確認され、非公式ながら原発事故周辺は当分人の住める場所ではなくなるとの見方すら、与党内の検討結果で出ています。

汚染は、大気、海水、山河から食品に広がっています。気にし始めたらきりがありませんが、東京新聞の事故対策コーナーや特報を読んでください。多くの本を読み、弊紙が一番分かりやすいと自負しています。

東電、経産省は原発が稼働しないと電力不足を招くと大騒ぎしています。これも眉唾?かもしれませんが、我が家も、東電の発表が万が一本当だったらの備えとして節電はしています。

すでに太陽光発電も購入していますが、こちらを先に説明すると、訪問販売の売り込みは、業者によっては説明もメチャクチャでした。停電でも安心とか売り込みますが、豪雨や積雪の停電時は発電してくれず、少しでも曇ると発電量は一気にダウン。発電していても停電時に使える電力は制限されます。ほとんどの業者はそんな説明してくれません。自分で性能や雨漏り保証などの有無など十分調べ、知っている店か量販店、家を建てた住宅会社などに相談するのをお薦めします。

でも、天気さえよければ、かなり頑張ってくれます。付属する液晶のパネルに現在家庭でどのくらい電力を消費しているか表示されるため、少しでも使用電力を減らそうと、無意識に努力し、電気代は大幅にダウン。契約電力を下げても十分なこともわかり、基本料金も節約できました。照明はLED、さらに小型の蓄電池も購入し、安い夜間電力で充電し、日中や夕方扇風機や書斎の照明に使っています。このメーターは、一般家庭用に太陽光発電無しでも使えるものが開発されながら原発事故で生産まで進んでいません。

太陽光、風力などの自然エネルギーは、まだまだ欠点も多く、また実力不足です。ですが原子力に投入している年間四千三百億円以上もの予算を本格的に回せば、もともと日本の得意な技術ですから開発は一気に進むでしょう。将来は、家庭や電力会社をつないで、電気の需要と供給をコンピューターで制御するシステムも一気に進むでしょう。原発はいらなくなります。

 

したまち支局時代2年、編集委員になってからも鬼塚さんの要請で1年と十カ月、このコーナーを担当してきました。紙面第一のため、これまでも業務時間には書かず、勤務のめどがついた深夜零時過ぎか休日に書いてきましたが、昨年九月からはゆめぽっけ四ページのデスクもしており業務が増え、休日も役所の市民大学講座や講演、雑誌の原稿執筆(マイタウン同様無報酬のみ受け入れています)。また通常業務の調べ物をすることが増え、このままでは業務への支障も予想されます。歴史や事件の裏話などまだまだ書きたい話はありますが、しばらくは不定期や休載になることをお許しください。

編集委員(元したまち支局長)植木 幹雄

すまいるたうん187号